作品紹介
舞台は華やかな陸上競技場。今日の日のために、徹底的に鍛え抜かれたことがわかるエネルギッシュな選手が走りこんでくる。その足音は静まり返った競技場に響き渡り、次の瞬間、彼は高く高く舞い上がる。それはまさに、芸術と呼べる美しい跳躍であり、観客全体がその着地までの刹那の旅路を息をのんで見守る。そして、着地した選手は、自分ではどうしようもない体の変化に戸惑いながらも、静かな葛藤を乗り越えて一つの答えを出す。
解説
この作品では、前半の肉体的な躍動感と後半の精神的な絶望感を対照的に描くことで、アスリートが抱える複雑な想いと、様々な戦いの形をつまびらかに描き出すことに成功している。跳躍の瞬間まで走りぬく過程は、彼の長い競技生活の道のりを暗に示しており、怪我や恋人との別れなど、けして平坦ではなかったはずの彼の人生の日々を、それでもまっすぐな道として受け入れたという清々しさが感じ取れるような工夫がなされている。空中での彼の眼差しには、すでにピークを越えた選手のそれではなく、どこまでもはるか高みを目指すアスリートならではの光を見ることができる。しかし、しかしだ、その後の着地から事態は一変し、彼のキャリアの中でも全く初めてと思われる”なにものか”に対峙せざるを得なくなる。この描写は、彼の人生がこれまでとは一線を画すフェーズに突入したことを示唆しているのである。”なにものか”に沈み込むということが、人生自体の沈み込みを重ねているとも言え、そのまま彼は戻りえないことを予感させるのである。否、その直後である。新たな希望とともに、再び心は浮上する。これは幅跳び選手すべてが持つという心の港「アスリティック・ハーバー」を新たな形で提示した挑戦的な表現でもあったのであろう。結局、制作陣によるこれらの取り組みはすべて有機的に結びつき、見る者すべてにそれぞれの幅跳びを胸に思い起こさせ、明日も踏み出していけるという勇気を与えることになっている。見終わった後、少しの寂しさと、何か温かいものに満たされる感覚を、ぜひご堪能いただきたい。
